掲示板の歴史 その八
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NO.177  「字相」「字義」の定義
□投稿者/ 空殻
□投稿日/ 2004/01/30(Fri) 17:54:50
□URL/ http://members13.tsukaeru.net/qookaku/intro/hitokoto.html


先日の禅と公案、不立文字などの絡み (【掲示板の歴史/六】参照) から、真言宗の観法(の終了部分)でよく用いられるという「字義」という言葉について、若干触れる機会を得ました。
「字義」というのは「字相」に対する語彙で、真言宗特有の用語です。

以下はその定義に関する引用記事です。
下線、[ ]括弧内記述、色付け、行の変換は空殻によるものです。

まずは法蔵館『仏教学辞典』より
字相字義
密教で、真言の文字を観ずる場合の文字の解釈法。つまり真言の文字の形、音、表面的な意味について観じるのが字相、それがもっている深い意義について観ずるのが字義である。また字相は顕で、世間日常の文字であり、字義は密で、出世間陀羅尼の文字であるともする。
声字実相
真言宗の教義。音声文字それ自体が実相に他ならないということ。如来の三密にいては、身語意の三業はもともと平等であまねく宇宙全体にみちみちており、森羅万象はことごとくこの三密をまどかに具えて本来的には仏であるが、衆生はこのことを自覚しないので、如来は音声(声)によって教えを説き、文字(字)によって教えを表してさとらせようとする。だから、声字は如来の語密であり、それは如来の身密である実相(もののありのままのすがた)と全く等しいのであって、声字がそのまま実相である。しかも、五大はすべて音響をもち、十界はみな言語を具え、六塵はことごとく文字であり、法身は実相であるから、声字実相とは法仏平等の三密、衆生本有(ほんぬ)(本来具有している)の曼荼羅を表す(空海の声字実相義)。
続いては、法蔵館『密教大辞典』より
字相字義

悉曇の文字は皆形音義の三を具す、義とは其文字に詮示せらるる義趣を云ふ。此義に字相・字義の両辺あり。字相とは文字の相状と云ふ意なれば字形を指す場合なきに非ず、然れども義の中より字相・字義を開きて、字相は淺略の義、字義は深秘の義と定むるを常とす。字相・字義の分齊を定むるに四重秘釋の法相を用ふ。

初会は淺略釋なり、字相とは文字の假相を云ふ、文字は理をあらはせども觀智の方便に過ぎず、文字の裏に別に所詮の理あり、聲字[實相]義に聲字假而不理實相幽寂而絶名[もし声字は仮にして理に及ばず、実相は幽寂にして名を絶せり(=「声字実相」について、「声字」はかりのものであり真理には及ばず、「実相」は奥深く「声字」による名称を超絶しているとする解釈もある)]と説くは此意なり。字義とは一々の聲字に皆義趣を帯するを云ふ。聲字則実相と説くは此意なり。されば初重にては、字相は顯教の分齊、字義は密教の分齊と定む、弘法大師梵網經開題に字相即顯字義即秘と説けるを證とす。

第二重は深秘釋なり。十住心論十に未甞識字相字義眞實句とあるを證として字相字義共に密教の分齊と定め、聲字則實相と意得たる上にて一一の字に一義理をあらはし一義一相差別せるを字相とし、一字に無量の義をあらはすを字義とす。例へば迦字作業の義なりと云はば字相にして、作業不可得なりと云はば字義なり。不可得とは中道の異名なり、不可得を観ずる時諸字皆法性の玄理に入り、平等一味にして一義一相を見ざるが故に、不可得を字義とす。

第三重は秘中深秘釋なり、不可得を字相とし、圓明を字義とす。前重における字義は聲字各々不可得に入ると説くも尚ほ能詮所詮の別を存する故に字相とす。能詮の聲字の外に所詮の理なし、聲字の相を動ぜずして擧體圓明なりと観ずるを字義とす。圓明とは圓は輪圓衆徳、明は純浄無垢の義なり、

第四重は秘々中秘釋なり。前重の圓明を字相とし、能所詮の別を存することを字義とす。前重の字義は能所詮を亡じて一心一味の圓明に歸する故に一法界遮情の法門なり。然るに文字は能詮にして理趣を詮はすを體とす、圓明の中更に能所ありて三密歴然たり、これ多法界表徳の法門を字義とす。

これを要するに四重秘釋は初重を基礎とし、第二重以下は常に前重の字義を以て字相と定むるなり。以上四重秘釋の大意を略叙したれども、杲寶私鈔・本母集等によりて更に四重の要旨を圖示す可し。


初重   字相 ― 顯 假 有相 世間 四妄語 詮旨各別
字義 ― 密 實 無相 出世 如義語 詮旨不別
第二重   字相 ― 俗諦 竪詮 一相一義 [迦字作業ノ義等]
字義 ― 眞諦 横詮 一切義  [迦字作業不可得等]
第三重   字相 ― 相待 [依可得字不可得故能詮所詮相待」
「亡能所圓明能詮外無所]
字義 ― 絶待 [詮一々字圓明法界是絶待也]
第四重   字相 ― 遮情 一法界[亡能所圓明遮情所遺迷]
字義 ― 表徳 多法界[能詮三密歴然表徳本有]


四重秘密釋は頼寶・杲寶等東寺学派の人々主として之を説く、南山宥快は初重第二重のみを説きて第三重以下を談ぜず。初重は顯密對辨門の義、第二重は自宗不共門の説なり。


続いては小学館『仏教語大辞典』より。
字相
密教で、字義に対し、文字の元々の意味をいう。例えば、阿(a)は否定の意で、無・非・不などと訳される。(例文は空海著『顕密二経論』参照)
字義
文字の表している意味。密教では、文字に特殊の解釈をつけることをいう。また、その特別の意味。例えば、阿(a)の字に本不生(ほんぷしょう)の意があるとする。また、文字どおりの本来の意を字相という。(例文は空海著『秘蔵宝鑰』)
字相義
字相と字義。空海が説く十六玄門のうちの一対の二句。字相は淺略、字義は深秘の解釈。(例文は空海著『心経秘鍵』参照)

上記引用文中に引かれている空海著『聲字實相義』は、真言宗における「字義」の解釈をより深く理解するためにとても有益です。
是非ご参照ください (局所的引用は こちら をご覧ください)。