掲示板の歴史 その十
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NO.287  漢訳蔵経の価値
□投稿者/ 空殻
□投稿日/ 2004/10/14(Thu) 12:29:56
□IP/ 65.168.28.130


以下は『仏教漢文の読み方』より抜粋。

@ 仏教学資料としての価値
  • 量的に厖大であること
  • 五世紀から七世紀にかけての、インド仏教最盛期のものを反映していること(岩波文庫、渡辺照宏『お経の話』から趣意)
  • 同一の経典について多くの異訳があり、比較対照に便利であること(同上)
  • それぞれの翻訳には、訳出の年代・訳者がほぼ正確に記載されていること(同上。ただ、同様の記述は全面的に信頼するわけにはいかず、『出三蔵記集』等の経録類[『大正新修大蔵経』第五十五巻、目録部収]などにより大幅に補正する必要があるが、言語資料として他に例を見ない確実性を有している)
  • 日本の仏教との関係が、きわめて深いこと(同上)
  • インドの仏教が、言語的にもまったく異質の、しかもすでに高度に発達した言語・文化大系の中に根をおろしていった、その成果を示すこと
  • まったく別系の言語体系と高度の文化を有していたと考えられる中国において、仏教受容が原典を離れて独立した解釈を生み出す傾向にあったこと
  • 他の翻訳経典(蔵文・蒙文)に見られない独自の体系を有していること
A 中国語史資料としての価値

中古の漢語に対してかなりの影響力をもっていたと考えられること。
口語記載の文章を考え、現代口語とのつながりを考える上でも、もっと尊重されるべきであると思われる。
以下は仏教漢文が中国語史上で中国語に対して持ったと考えられる四種の影響。
  1. 音韻的影響
    中国人に音構造の自覚を促したこと。梁の沈約(しんやく)の「八病(はっぺい)説」や、注音方法としての反切法は、仏教による外来語の刺激によって生じたものとされている
  2. 語彙的影響
    伝統的な文言の世界にとどまらず、口語的要素を導入、『世説新語』さらには下って唐代の俗語(敦煌写本に見られる口語成分など)、宋の口語(語録、小説、詞など)とも連絡していったこと
  3. 語法的影響
    同じ文語文脈でも、ある種の破格な用法を示したこと
  4. 文体的影響
    四字句の頻用や、韻文・散文混合の独特の形式を、中国の文章の中に打ち立てていった(と考えられる)こと