掲示板の歴史 その八
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NO.241  『即身成仏義』
□投稿者/ 空殻
□投稿日/ 2004/06/17(Thu) 18:41:41


空海は『即身成仏義』において、次のような興味深い主張、または引用をしている。
  • 『金剛頂瑜伽修習毘廬遮那三摩地法(三摩地軌)』は、法身如来の自内証の内容を(文字によって)説きあかしている。
  • ナーガルジュナの『菩提心論』は「真言法の中でのみ即身成仏する。その成仏の手段として、この三摩地(精神統一)の法を説くのであり、一般の仏教では説かれることがない」と説いている。
  • 能所の二生ありといへども、都て能所を絶せり。法爾の道理に何の造作かあらん。能所等の名はみなこれ密号なり。常途淺略の義を執して種種の戯論を作すべからず。
  • かくの如くの経典などには、みな、このすみやかに成仏させる力、不思議なる神通力を起こす精神統一の方法を説いている。もしも、[儀軌に示された]法則どおり、あやまたずに、昼夜にはげみつとめるならば、この身体のままで、五種類の神通力を獲得する。そうやって修練していけば、やがてはこの身体を捨てないで、進んで仏の位に入ることができる。くわしくは、経に説いているとおりである」(同二四五。パラ済)
また、空海は同著において「即身成仏頌」という自作の詩を紹介している。
これは以下の二部に分けられる。(読み下しは渡辺照敬氏)

@即身の頌
  1. 六大無碍常瑜伽(体) [六大無碍にして常に瑜伽なり] (すべてを構成する六つの要素は、さえぎられることなく常に結びつき合い、とけ合っている)
  2. 四種曼荼各不離(相) [四種曼荼各離れず] (四種類の曼荼羅は、それぞれ関わりあって離れることがない)
  3. 三密加持速疾顕(用) [三密加持すれば速疾に顕はる] (仏とわれわれとの三密が応じ合えば、悟りの世界は速やかに現われる)
  4. 重重帝網名即身(無碍) [重重帝網なるを即身と名づく] (あらゆる身体が帝網の珠のように映じ合うのを、名づけて「この身のまま」という)
A成仏の頌
  1. 法然具足薩般若 [法然に薩般若を具足して] (あらゆるものは、あるがままに「一切智智(=一つの智慧によってすべての事象を知るという従来の意味ではなく、一切衆生に具わる智慧という解釈)」を具え)
  2. 心数心王過刹塵 [心数心王刹塵に過ぎたり] (あらゆる衆生に心作用と心の主体とが具わり、数限りなく存在する)
  3. 各具五智無際智 [各五智無際智を具す] (心の作用と主体のそれぞれに、五つの智慧と際限なき智慧とが具わっている)
  4. 円鏡力故実覚智(成仏) [円鏡力の故に実覚智なり] (その智慧をもって、すべてを明らかな鏡のように照らすならば、真理を覚って智者となる)
上@中「四種曼荼各不離」を説明するにあたって、空海は次のような引用と主張を試みている。
  • 『大日経』「本尊三昧品」には「すべての如来に三種類の秘密身がある。すなわち、字と印と形像とである」と説かれている。(同二三八頁参照。パラ済)
  • 『金剛頂経』の説によるならば、四種類の曼荼羅とはまず一つに「大曼荼羅」すなわち仏菩薩の姿形、「三昧耶曼荼羅」すなわち持物や印契といった諸尊の状態の象徴、「法曼荼羅」すなわち本尊を象徴する梵字と秘密の語句、そして「羯磨曼荼羅」すなわち仏菩薩の活動動作を示す。これらのうち第三の「法曼荼羅」は本尊の種子という一面だけにとどまらず、宇宙の真理を身体とする仏の法体そのもの、およびすべての経典の表現と内容なども含まれている。(同二三九参照。要約)
  • 四種の曼荼羅(姿、状態、字、動作)はそれぞれ真実相を顕し、互いに関わりあって妨げあうことなく離れることがない。よって「四種曼荼各不離」という。「離れることがない」とはすなわち「即」という意味である。(同二三九参照。要約)