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NO.227 『大智度論』と『瑜伽師地論』の所説
□投稿者/ 空殻
□投稿日/ 2004/04/28(Wed) 16:19:03
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仏教用語辞典
『般若経』の注釈書『大智度論』によると三種の陀羅尼があるとする。
- 聞持陀羅尼
= 「聞持するものである陀羅尼(dhaarana-dhaaranii)」で、これを得る者は経典のあらゆる言葉を忘れることがない。
- 分別知陀羅尼
= さまざまな事物の差別相を如実に覚知することで、諸仏の教説を確実に憶持することができれば、それは正しい知恵と不可分に結びつく。
- 入音声陀羅尼
= この陀羅尼を得た菩薩は、いかなる悪口や非難に対しても心に憎しみや恨みを生じないとともに、逆にどんなに讃嘆を受けても慢心せず喜ばない。
こうして見てみても、同論書が『大品般若経』系の聞持の思想を根底とし、しかも無自性空によって表現される般若波羅蜜に直結していることが分かる。ただ、やはりその典拠を『般若経』系にのみ拠っていることから、いささか思想的な制限が感じられることは否めない。
すこし時代を下って四世紀頃に成立したと推定される『瑜伽師地論』には、次の四種が説かれる。この説は同論書と同系統の曇無纖訳『菩薩地持経』巻八、求那跋摩訳『菩薩善戒経』巻七に説かれる。また、後世には不空訳と伝えられる『総釈陀羅尼義讃』や空海の『般若心経秘鍵』『梵字悉曇字母竝釈義』などにも受け継がれている。
- 法陀羅尼
(dharma-dhaaranii)
= 経典を聞いて忘失しないこと。
- 義陀羅尼
(artha-dhaaranii)
= 経典の義趣(artha)を理解し保持すること。
- 呪陀羅尼
(mantra-dhaaranii)
= 三昧の威力に基く呪句(mantra-pada)を加持して災厄を取り除くこと。『法華経』「陀羅尼品第二十六」の呪句などは、その代表といっていい。
- 能得菩薩忍陀羅尼
(bodhisattvakshaantilaabhaaya dhaaranii)
= 菩薩が適切な智慧と行を得た上で、次には種々の利益を与える呪句そのものにも、本来は「意味がない(nirartha)」という事実をさとることによって、一切法の深奥に至るとするもの。「忍」という語からも分かるように、陀羅尼と密接に関連する無生法忍を念頭に置きつつ上記三つの陀羅尼説をも再統合した「勝義の陀羅尼」。
おそらくはこの陀羅尼説の影響下のもとに、現世利益的で思想的裏づけの乏しい雑多な真言の在り様が展開して、後世、複雑に体系化された「成仏」の理論に基く「菩提の真言」の誕生へと、照準とレベルとをシフトしていったのではないかと思われる。
これはある意味、回帰現象(怪奇現象ではない。笑)といってもいいだろう。
(「大正/八」三四三下、「大正/二十五」九五下、「大正/三〇」五四二下―五四三上、梶山雄一「仏教タントリズムにおける言葉の問題」、頼富本宏「陀羅尼の展開と機能」参照)