仏教用語辞典


蓮華 [れんげ]
インドで蓮華と呼ばれるものは大別すると、「パドマ」と「ウトパラ」の二種が挙げられる。

  1. パドマ[padma] とは 「はす」 のことで、通常は赤蓮華(しゃくれんげ)を指す。
    赤と白の二種類が実在することが確認されている。

    1. 赤 =パドマ[padma]。
      鉢頭摩華(はどまけ、はずまけ)、鉢曇摩(はつどんま)、鉢特摩(はつとくま)、波頭摩(はずま)、般頭摩、鉢特磨、鉢特忙、鉢弩摩、鉢納摩、波曇、波慕などと音写され、赤蓮華(しゃくれんげ)、赤蓮、紅蓮華(ぐれんげ)、赤黄蓮華、黄蓮華と訳される(黄色のものが実在するか否かは不明)。八田幸雄氏によれば、大悲の心に赤く染めていく救済の働きを象徴しているという。同氏は胎蔵八葉が赤い蓮華で表わされることに言及し、これが「大悲の心によって染めていき、すべてを救っていく働きを示そうとするからである」と述べている。ちなみに、八寒地獄の中に鉢頭摩地獄、摩訶鉢頭地獄というのがあり、紅蓮地獄、大紅蓮地獄とも訳されるが、これは地獄の有情が寒さのために身体が赤くなり、皮膚が破れて赤色を呈するからである。
    2. 白 =プンダリーカ[puNDarIka]。
      分陀利華(ふんだりけ)、分陀利迦、分茶利迦などと書き、白蓮華(びゃくれんげ)、百葉花、妙好華(みょうこうげ)などと訳される。煩悩に汚染されない清浄無垢の仏、法性、究極の如来の心を象徴し、『悲華経』や『法華経』はこの華を経題とする。パドマの一種であるが、通常パドマという場合は赤蓮華のことを示す。

  2. ウトパラ[utpala] とは 「ひつじぐさ(睡蓮)」 のことで、通常は青蓮華を指す。
    優鉢羅華(うばらけ)、優鉢、烏怛鉢羅などと音写し、青蓮華、黛花、紅蓮華と訳す。青、赤、白の三種がある。

    1. 青 =ニーロートパラ[nIlotpala / nIlaは青の意]。
      『仏教学辞典』によれば仏典において最も有名な華。尼羅烏鉢羅華(にらうばらけ)と音写する。経典には仏の眼の微妙なのをその葉に喩え、口気の香潔なのをその花に喩えている。青蓮華は千手観音四〇手の中の右の一手の持物であり、その手を青蓮華手という。八田幸雄氏は「大悲救済の働きは煩悩との闘いで、それは真の自己の確立という働きとなっていく。この力強い働きを青蓮で示すのである。青蓮は葉が青く、しかも針のように尖っていて、突きさすような痛い葉を持つ。この葉をもって煩悩克服の働きを示そうとするのである」と述べている。いわば、攻撃的な智慧を象徴する蓮華であるといってよい。
    2. 白/紅(黄?) =クムダ[kumuda]。
      拘勿頭華(くもつずけ、くもずけ)、拘牟頭、倶物頭、句文羅などと書き、白蓮華、地喜花などと訳す。
      満久崇麿氏によるとこれは「黄蓮華」であるという。

また、サウガンディカ[saugandhika 須乾提華]という華があり、好香華を意味するが、これもまた蓮華の一種と見られる。
華の色は黒とも赤ともいい、また白のクムダではないかともいわれるが明らかではない。
『仏典の植物』で満久崇麿氏は青蓮華がスイレン系、白蓮華と紅色系の赤蓮華が熱帯・温帯アジア系のハスであると解釈しているが、加えて「黄蓮華」をスイレン系と解すべきであると述べている。

参考文献:法蔵館『仏教学辞典』、平河出版・八田幸雄『秘密マンダラの世界』(一三八頁)、八坂書房・満久崇麿『仏典の植物』(三〇頁)/入力:二〇〇四年九月六日