仏教用語辞典


不思議空 [ふしぎくう]
一般には仏・菩薩が体得している空のこと。有無を絶して涅槃も実相もまた空であると悟った境地であり、第一義空ともいう。
『大智度論』に説かれる十八空の第六で別名を「勝義空」ともいう。
密教では、これを大日如来の大空三昧阿字不生の理であるとし、この「大空」は因人の思慮言議を超絶していることから不思議と名づける。
以下は付加定義。

@ 大空三昧[だいくうざんまい]
正覚三昧、究竟三空三昧ともいい、空にも有にも執着せずに空と不空と畢竟無相にして一切相を具すと観照する三昧であり、如来の無礙智に住すること。
A 阿字不生[あじふしょう]
阿字本不生(あじほんぷしょう)、阿字本不生不可得などともいい、サンスクリット語では「Akaara-aadyanutpaadah」という。阿字に本不生の義があるとする主張で、密教の修道によく用いられる解釈だが、『大品般若経/五』「廣乗品」や不空訳『華厳経四十二字観門』といった経論に確認されているように、これは密教の専売特許ではない。
B 本不生[ほんぷしょう]
サンスクリット語は「Aadyanutpaadah」。ありとあらゆるものの本来の在り様が不生不滅であることを意味し、中道、自性法身自内證の境界、自性清浄心などの意味を含んで表現される。阿字の字義であり、この語に不可得を加えて字相とする。
C 因人 [いんにん]
果人に対する語で、因位の人を指す。真言宗では十地以前の修行段階にある者をまとめてこのように呼ぶ。
ブラフマン [ぶらふまん]
『アタルヴァ・ヴェーダ』においてたたえられた至高なる諸原理の一つ。
元来は「神聖な知識」とその言語的表現としての讃歌・呪句を意味する語。
言葉の霊力そのものの神格化であり、それがやがて宇宙の最高原理となるに至った。
(参考文献・中央公論社『バラモン経典/原始仏典』二二頁)
不立文字 [ふりゅうもんじ]
「悟りは文字や言葉によって伝わるものではない」という言わずと知れた禅宗の標語。
「教外別伝」、すなわち「悟りの本質は教えの外にある」とペアになって紹介される。
排他的実践主義であり経典否定主義。
日本密教であり中期密教の一派である真言宗(穿っていえば空海)の主張する「聲字実相」とほぼ正反対の立場。
本来ならば非攻撃的で極端を嫌う仏教という流れにおける、一つの大きな極端といってよい。
典拠は偽経『大梵天王問仏決疑経』の拈華微笑の逸話にあると思われる。
アカデミックなエリートで本来の第六祖であったはずの神秀を批判し、新たな第六祖として慧能を祀り上げた神会による南宗禅の勢力によって強調された。
これによって後世、日本や中国において仏教学の確立がなされるまで、禅宗や達磨(ボーディダルマ)の本来の在り様が大きく誤解され続けることになった。
二〇〇四年五月十日入力)

⇒ 拈華微笑 荷沢神会 達磨 胡適 鈴木大拙